JOSEPH HOMME

JOSEPH HOMME STORY OF LIGHT TUCK JERSEY|その生地は、デザインを超える。希少なヴィンテージ編み機から生まれる、世界に二つとない生地。 JOSEPH HOMMEデザイナー 吉屋 充 × 熊工房 熊田会長

2024SS

「素材開発もデザインの一部である」というフィロソフィーを
まさに体現したJOSEPH HOMMEオリジナル素材「ライトタックジャージー」。
どんなシーンでも一枚で決まる存在感を持った佇まいと、
シワになりにくく、軽量で清涼感のある着心地を兼ね備えたスペシャルなテキスタイルだ。

一見するとハイテク素材のようにも見えるこの生地は一体どうやって作られているのか。
その秘密に触れるべく、JOSEPH HOMME デザイナーの吉屋 充が福井県の工房を訪ねた。
そこには、今や極めて希少となったヴィンテージ織り機の存在と、
ほかでは決して真似できない唯一無二の職人の技があった。

JOSEPH HOMMEと
ライトタックの出会い

JOSEPH HOMMEがライトタックと出会ったきっかけは何だったんでしょう?

吉屋:長年一緒に素材開発をさせてもらっているテキスタイルメーカーさんから、10年ほど前に「吉屋さん、こんな生地があるんだけど」と、このライトタックジャージーを見せていただいたのが最初の出会いです。これはいつぐらいに開発された生地なんですか?

熊田会長:そもそもの話をすると、トリコット生地自体は60年くらい前から開発され始めて、本格的な生産に入ったのは50年ほど前だと思います。なので、こういう生地の雰囲気は50年前からあったんですが、もちろん当時と今とでは糸づかいが違いますから、糸がどんどん新しくなって今の形になったというわけです。

吉屋:そうだったんですね。昔からあった編み方の中でいろいろ試していってこの生地を開発されたと。

熊田会長:自分でいろいろと試行錯誤を重ねてこの模様に辿り着きました。この生地は従来のタックとはちょっと感じが違うと思うんですよ。みなさんもいわゆる「ピンタック」という言葉は聞いたことがあると思うんですが、それをこの四角の模様が出るように独自に改良したものがこのライトタックジャージーです。これはT400という糸ができたから作れた生地で、ほかの糸でこの模様と風合いを出すのは難しいと思います。

吉屋:そんな生地と10年ほど前に出会って、これは見たことないぞと採用してものづくりを続けていたら、今ではもうブランドを代表するヒット品番に成長しました。昨年には社内のベストプロダクトアワードでも表彰されたんですよ。最初にやってた頃はデザインも1〜2型しかやってなかったんですが、今では7型くらいまでこの素材を使ってやらせてもらっているほどです。

美しさと心地よさが
共存するテキスタイル

ハリ感のある見た目と着やすさの秘密は何ですか?

会長:T400というのはわかりやすく言うとストレッチ性のあるポリエステル繊維です。T400の糸とトリアセテートの糸をうまく絡ませて、中はT400で固めて表面にトリアセテートのドライな感じが出てくるように編む。それが着やすさにつながっているんだと思います。

吉屋:それと、この独特の清涼感のあるタッチとか、シャリ感というか品のある光沢感もそこから生まれてるんだと思いますし、伸縮性のあるポリエステルがきゅっと締めてくれるから1枚で着た時にも決まりやすいんですよ。保形性があると言えばいいですかね。あとはタック形状というのが凄く意匠性が高いから、黒無地でも白無地でも、無地なんだけど柄物に見えるという点も大きなポイントだと思います。無地だけど柄感覚で編み組織が出ているから、それだけでデザイン性が高く仕上がるんです。

洗濯してもぜんぜんヘタらないし、形崩れも色落ちもしないですよね。

吉屋:生地って最終仕上げの時に「セット」という熱をかけて形を安定させる工程があるんですが、先ほど会長がおっしゃってたように、ポリエステルとトリアセテートという繊維を使うことでその工程を高温で出来るようになるからだと思います。つまり高温での仕上げが可能になることによって、形態安定性がすごく高まるということですね。非常に優れたテキスタイルですよね。

“旧式編み機”でしか
出せない風合い

温度や湿度によって品質が左右されるとか、品質管理的な意味での苦労もあったりするのでしょうか?

会長:そうですね。湿度が結構大事で、空気が乾きすぎるとなかなかやりづらいんですよ。理想は湿度75%です。というわけで北陸地方がいいんですよ。他の地域だと冬は空気が乾燥しますが、ここは冬の間でも加湿器を置かなくても75%くらいの湿度があります。今はもう空調設備もあるのでやろうと思えばどこでもできるはずなんですけれども、うちの工場はそれだけの設備はないので自然の力でやってます。だから工場内では湿度を保つために暖房を入れてません。同じような工場を例えば関東地方で建てようとすると、設備も空調もかなりの維持費がかかると思います。

吉屋:これを編んでいる編み機もかなり古いものなんですよね?

会長:はい、一番古いのは60年前の機械です。

吉屋:その機械で「ヒゲ針」という針を使って編んでいるということなんですが、それによってこの独特な凹凸感を生む編み方ができるんですか?

会長:今の新しいコンパウンド編み機はテンションを強めにかけて編むので、この凹凸感が損なわれてしまいますし、そのテンションに糸そのものも耐えられないんです。一方でヒゲ針を使った旧式編み機は、逆に緩いテンションでないと編めません。だからこそこの独特の風合いが出せるんです。

吉屋:なるほど、そのヴィンテージの機械じゃないと作れないと。その60年前の機械を操作する、メンテナンスするというのもまたすごく職人の技術が必要だと思うんですけど。

会長:そうですね、とにかく感覚としか言えない部分が大きいです。

吉屋:もう長年の経験と勘を持った会長にしか触れない機械ということですね。

秘密のノートに描かれた
設計図

生地ごとに機械のセッティングもいろいろ変えると思うのですが、そこからして誰にでもできるようなもではないと?

会長:それも感覚で組み合わせを考えるんですけれども、こうやって編めばこんな感じで出てくるなというのをイメージしながら組織図を書いて機械をセッティングしてます。

数字にしてセットすれば誰でもできるというようなものでは全くないわけですね。

会長:自分でノートに書いていくんです。基本となる組織図が書いてある当時のマニュアルを見ながら、自分で組み合わせを考えて設計図を描いていく。仕上がりをイメージして自分なりに工夫しながら書いてきた、私にしか解読できない秘密のノートです(笑)

吉屋:コンピューター制御する最新の機械ではないからこそ、クラフトマンシップも作り手の感覚的な部分が比重としては大きくなるということですね。

会長:ちょっとゆとりを持たせるとか、きつめにするとかそういった微妙なところが非常に感覚的な領域ですね。機械も今うちでは3台使って編んでるんですけど、やっぱり台それぞれでちょっとずつ個性が違うんですよ。それを均一の仕上がりにするのにもまた技術を必要とします。

吉屋:ちなみに、ほかに作られているタックの編み物とかそういうものは一応今の機械でもできるものなんですか?

会長:似たようなものを作ることはできると思いますけど、微妙な風合いまで再現するという話になるとうちの機械のヒゲ針でしかできないと思います。機械のスピードがゆっくりなので、いわば空気もいっしょに編み込んでいくことで出る膨らみ感や風合いというものがあると思います。今はどんどん高速化して、糸をぎゅっと引っ張ってやってますけど、逆方向ですよね。進化する前の状態でしか出来ないことです。

素材を生かすデザインと
フィロソフィー

「素材の開発もデザインの一部である」というJOSEPH HOMMEのフィロソフィーがありますが、この生地に出会った時、吉屋さんご自身はどう思われました?

吉屋:ここまでデザイン性の高い素材だから余計な味付けはしないで料理したいんですよ。素材の持ち味を生かすためのデザインって何だろう?と考えた時に、やっぱりシンプルに素材を味わってもらう形がベストだという考え方でやってるのがライトタックシリーズです。無駄なデザインディテールとか装飾的なものは一切くっつけないです。だから日本料理と近いんですよね。素材の持ち味を生かす技法が日本料理なので、特にこういう素材はもう十分これだけで存在感がありますから、それをいかに引き出すかということを考えています。

海外からも引き合いが来たという話もうかがいましたが。

吉屋:昨年、あるアジアのアパレル企業さんからこの生地を使いたいという話があったそうなんですが、作れる量も限られているので現在この生地はJOSEPH HOMMEだけのオリジナルですね。

1年掛かりで作り上げる
特別な生地

生地ごとに機械のセッティングもいろいろ変えると思うのですが、そこからして誰にでもできるようなもではないと?

吉屋:徐々にですね。きっかけはコロナ禍だと思います。みんな家にいる時間が長くなって、世の中的にちょっとリラックスできるけどちゃんと見える服がほしいというニーズがすごく増えたじゃないですか。だから2020年ぐらいから徐々に売れはじめて、2021年に作る量を増やして、2022年になってそれでも足りないからもっと作らないと!ってなって、2023年はさらに増やして作りましたけど、あれ?まだ足りない!でももうこれ以上できない!みたいな(笑)だからこれ、生地を熊工房さんに作ってもらうのに1年くらい前から準備してるんです。1年前にこれくらいの数量が欲しいという計画を伝えて、糸、編み機、染色まで手配してます。普通の生地はだいたい3ヶ月くらいで作れるんですけど、旧式の編み機でゆっくり編むから時間もかかるんですよ。だけどこの機械で熊工房さんにしかできないんですよ、これは。

会長:今うちにある3台を目一杯動かして作ってますけど、もし仮にオンワードさんからもっと作って欲しいから機械を増やしてくれと言われたとしても半世紀前の古い機械ですから、手に入れること自体がもうほとんど不可能なんです。メンテナンスも、どこか故障したら自分で手直しするしかないんです。

吉屋:初めて見る人にはすごいハイテク素材に見えると思いますけど、実はその逆で旧式の編み機と職人の技だったというのが驚きです。いろいろな複合的な要素が絡み合って偶然これが生まれているということに心を揺さぶられますね。

JOSEPH HOMME LIGHT TUCK STYLING