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隈研吾 × 森永邦彦
生物の<個別性>に惹かれて

ANEVER

ANEVERの花器「つみ花」のデザインを手掛けたのは、日本を代表する建築家・隈研吾氏。
ANEVERデザイナー・森永邦彦との対談にて、「つみ花」に込めた想いを語った。

  • 花器の概念が反転した「つみ花」

森永:確かに反転していますね。プロモーション用ビジュアルでは1輪のカラーと1輪のスズランを挿して撮影したのですが、1輪がとてもよく映える花器だと感じました。隈さんがおっしゃられたように、花でできたプロダクトに花を生ける点に反転関係があって。
  • カラーとスズランを使用したプロモーション用ビジュアル
  • (Model : Yurina Hirate / Photographer : Takashi Kamei)

隈さん:「つみ花」を使う人自身がクリエイターのように形を決められるところも、既存のプロダクトデザインとの違いかもしれないですね。デザイナーとユーザーの関係もまた反転しています。積み重ねることでレゴを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、「つみ花」の自由さはレゴの自由さとはまた違います。レゴは、一個一個地道に積み上げていくレンガ造で、ヨーロッパ文化を反映した造形。一方、「つみ花」は曲線的で、突然に思いがけない形へと変化する。レゴには無い「形態のジャンプ(飛躍)」があるんです。これはある意味、木造の国の自由さじゃないでしょうか。木というものはすごく軽くてどんな形にもなる。回転させることもできるわけで、レンガの持っている自由さとは別の自由さがあるんです。僕がオーストラリアのシドニーにつくった「The Exchange」も木がぐるぐる巻かれたデザインですが、あれは建築物ですから実際にぐるぐる動くわけではありません。けれど、この「つみ花」は実際に動きますからね。 建築ではできないことへのフラストレーションみたいなものが、ここで解消されています(笑)。

森永:そうだったんですね(笑)。

隈さん:花器のようなプロダクトには、建築とは全く違う面白さがありますね。建築は発注者や色々な関係者がいてある意味とても不自由なものですが、プロダクトは森永さんと僕、2人のドリームみたいなものがあればできますから。

森永:「つみ花」は、最終的に作る人によって形が全て変わるということが、特徴としてすごく強く出ていると思います。僕は、初めてフラワー樹脂をつくったときに、本物の花を使うことで1点1点全て違うものができるということに、とても魅力を感じたんです。ファッションの中にはたくさんの「花柄」がありますが、ANEVERの花柄にはひとつとして同じものがありません。樹脂の中にドライフラワーを閉じ込める手法が持っているこの性質と、隈さんにつくっていただいた「つみ花」の構造は、多くの方の元へ届くプロダクトだけれどそれぞれが1点ものとして扱えるという部分で、かなり親和性が高いですね。

隈さん:そうですね。花びら型をしたアクリル版が自由に回転して、花器の形状は使う人によって無限に変化します。やはり、生物の持っているひとつひとつが全部個別だという性質は、たくさんの性質の中でも特別なものだと思うわけですよ。普通、高分子構造は繰り返しになるけれど、生物は必ず一個一個が違う。その特別さが、「つみ花」の中に閉じ込められている気がします。
  • <積み重ねる×摘み取る>が
    「つみ花」の名前の由来

森永:面白いですね。

隈さん:積み木を積みあげる中で、自分で創造する楽しさを知ったんです。実際にいくつか自分でデザインしているほどこだわっている「積み木」と「花」が合体したのは、森永さんがANEVERをやっていたからこそ。花をアクリルに閉じ込めるなんて、僕には思いもよらなかったことですから。このふたつの合体を「つみ花」という言葉で表現できたらと考えました。

森永:素敵な名前、ありがとうございます。実は僕も、積み木がすごく好きです。

隈さん:そうなんですか! 建築家フランク・ロイド・ライトも子どもの頃ずっと積み木をやっていたそうですよ。ライトの母親がドイツの教育者フレーベルがつくった積み木を手に入れて、やらせていて、それが彼を建築家たらしめたというエピソードは有名です。その積み木には、四角だけなく、丸や三角も入っています。フレーベルが一番子どもの脳を刺激すると考えた組み合わせですよね。僕も積み木を手でいじることには、人間の脳を刺激する何か特別なものがあるんじゃないかと思います。

森永:去年子どもが産まれたので、興味深いです。ちょうど1歳になったところで、積み木も少しだけ積めるようになりました。「つみ花」は、子どもが組み立ててもすごく楽しいのではないでしょうか。子どもたちに、何か新しい発見をしてもらえる気がしますね。

隈さん:子どもの頃の経験は重要ですよね。僕は横浜出身ですが、自然が豊な里山の麓で育ちました。当時はそこに何か意味があるなんて思わなかったけれど、後々自分が建築としてどんな空間をつくりたいのかと考えたときに、やはり自分の子ども時代に戻ることが目標じゃないかと思えてきたんです。年を重ねて、かつて自分の生きた空間や時代の価値がやっとわかるようになりました。森永さんはどの辺りで育ったんですか?

森永:僕は東京の国立市です。緑の多い谷保という地域で育ち、昆虫採集や標本づくりに没頭していました。例えばモンシロチョウは、花との関係で捕まえられるんです。人間と蝶では見えている世界が違い、モンシロチョウは紫外線の領域を見ているんですね。だから花の蜜がある部分を認識できる。そういった視点もふまえ、「この花にはこの虫が寄ってくるだろう」と予想して捕まえていました。軽井沢にあった別荘はまさに山の中だったので、そこに行くのも楽しかったですね。
  • 非連続的な世界のダイナミズムは、
    自然の中でこそ味わえる

  • アクリルに閉じ込められた花に、
    倉俣史郎氏「ミス・ブランチ」を思う

森永:光栄です。僕の場合、大胆な服をつくっているように思われがちですが、細部や繊細さもとても大切にしています。大胆さと繊細さは相反するものですが、両方が大事です。アクリルに花を閉じ込めるアイディアは、実は中学時代に見た映画「ジュラシックパーク」にインスパイアされたもので。樹液に閉じ込められた蚊が吸った血から恐竜を復元するという物語が、当時かなり衝撃的でした。それで服をつくるようになってから、樹液に蚊が閉じ込められていたように、アクリルに花を閉じ込めてボタンをつくれないだろうかと考えたんです。100年以上続いている奈良のボタン屋さんに相談し、試行錯誤してつくったボタンがフラワー樹脂シリーズのはじまりです。もしかしたら100年後に花が一切ない世界が到来し、残っていたフラワー樹脂のアクリルが何かのきっかけで溶け、中から出てきた花からまた花の再生が起きるかもしれない…と本気で想像していますし、そんな浪漫を込めたプロダクト。ボタンづくりからはじまったので、ボタン屋さんにこんなことはできないか、あんなことはできないかと持ちかけて、ハンガーやアクセサリーへと展開し、今回は花器が完成しました。

隈さん:100年以上続いてるボタン屋さんとは、すごいですね! 今、ボタンと聞いて貝殻のボタンを思い出しました。貝殻からボタンができているというのはすごく不思議。初めて認識した時に、とても驚きがあった気がします。服は大量につくるものだから工業製品だと思っていたけれど、貝殻のように本当に海に落ちているものがパーツになっていて、人間の体が実際に触れるところにあるなんて、すごくドリームがあるなと。あれも生き物が胸元にあるということですね。今、ボタン屋さんがつくっているというお話を伺って、何か繋がるものを感じました。

森永:そうですね、その奈良のボタン屋さんでも貝ボタンを製造しています。貝ボタンは表は同じに見えますが、裏が全部違います。個別性があるボタンですね。

「花」に対する「空間」が「花器」であるように、「建築」はあらゆるスケールになり得る

森永:「空間」や「建築」というと、どうしてもスケールが大きいという前提で見てしまいますが、今日対談させていただいて「空間」は至る所にあるものなんだと改めて気づきました。隈さんが取り組まれているシューズや、ANREALAGE 21SS「HOME」で隈さんにつくっていただいたヘッドピースも、この「つみ花」もそうですよね。「花」に対する「空間」が花器で、服ももちろん、人が生活するための「空間」です。主体があり、空間があるという見方で、何か他の主体にずらしてみたときに、また世界が変わりそうです。

隈さん:そうですね、「建築」と聞くと大きな物体を想像するけれど、実際にはあらゆる大きさの中に「建築」というものが存在しているわけです。例えば、コンピューターの世界で「アーキテクチャー」という言葉が使われるのは、「建築」の概念がもうあらゆるスケールになり得るということを示しているんですよね。建築家自身がもっとそういうところに分け入っていけたら、「建築」が面白いものだとさらに伝わるはずです。「つみ花」は、そう意味での試みのひとつ。ひとつのチャレンジです。


(2022/7/29 隈研吾さんの東京オフィスにて対談 / Photographer : Yuri Iwatsuki)

隈研吾 KENGO KUMA

1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授、名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』『小さな建築』(岩波新書)ほか著書多数。

森永邦彦 KUNIHIKO MORINAGA

1980年、東京都国立市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中に服づくりを始め、2003年「ANREALAGE(アンリアレイジ)」として活動開始。2005年『GEN ART 2005』でアバンギャルド大賞受賞。同年より東京コレクションに参加し、2015SSよりパリコレクションデビュー。2011年『第29回毎日ファッション大賞』新人賞・資生堂奨励賞受賞。2020年AW 日本人デザイナー初のFENDIとのコラボレーションを実現。2021年3月よりオンワード樫山とコラボレーションした新ブランド「ANEVER(アンエバー)」をスタート。
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