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芸人、俳優、執筆、脚本業と
多彩な活躍をみせるヒコロヒーさん。

そんなヒコロヒーさんのアイコンである
「セットアップ」を着る理由とは。

またヒコロヒーさんにとって「装う」こととは。
今シーズン、uncraveがコラボする
向田邦子さんへの思いとともに語って頂きました。

/ hiccorohee

1989年、愛媛県生まれ。松竹芸能所属ピン芸人。学生時代のスカウトをきっかけに、2011年デビュー。ひとりコントを中心に舞台やバラエティ番組、ドラマ・映画出演、執筆、ラジオパーソナリティなど幅広く活動中。現在はレギュラー番組12本、連載3本を抱え、その独特な存在感が幅広い層に支持されています。小説「黙って喋って」が島清恋愛文学賞を受賞し、海外翻訳版も発売となり話題に。趣味は麻雀、酒、映画、読書、絵画鑑賞など。

「30代以降の女性だったら、アンクレイヴの服はしっくりくると思います。その年齢になったら、“自分らしさ”というのがどういうものなのか、ちゃんとわかっているはずですからね」

ヒコロヒーさんによれば、ファッションというのはいちばん身近な自己表現だという。“自分らしさ”をどう演出するか、そこが「装う」楽しみだ。

自己表現とはいっても、“社会”という人と触れ合う場では、ファッションや香水、アクセサリー、バッグといった身に着けるものでジャッジされかねない、とヒコロヒーさんは言う。

とにかく自分が好きなものを、というスタイルももちろんアリです。私も、好きなものが似合う自分でいようと常に心がけています。ただ、それを身に着けたとき、自分はまわりからこういうふうに見られるかもしれない、ということをちゃんと理解したうえで、選ぶことが大事かなと。若いうちはなんでもいいかもしれない。ただ、ある程度の年齢になったら、そのへんをわきまえることが、“品”につながるんだと思います」


向田邦子さんのエッセイに「手袋をさがす」という一篇がある。
気に入った手袋になかなか出会うことができず、結局ひと冬、手袋なしで過ごしたという若き日の体験を綴ったものだ。
まわりの人からどう思われようと、「ないものねだりの高のぞみが私のイヤな性格なら、とことん、そのイヤなところとつきあってみよう」。そう決心した向田さんは、いまだに「手袋をさがしている」と書く。
それが「たったひとつの私の財産」だと。

このエッセイを、ヒコロヒーさんは24、5歳のときに読んだという。
そのときの印象は、「自分とは違う」というものだった。
「向田さんはご自分の中にいろいろな選択肢があって、その中から“自分の我がままを矯めない”という生き方を選択されたわけですよね。

でも、私はみんなが普通に中学や高校に行っているときから、ひとり逸れていましたからね。
みんなと同じものをかっこいいと思えたらよかった。みんなと同じものをおもしろいと思えたらよかった。
でもそれが無理なタイプだった。
学生のときはいろいろ悩んだけれど、結局、私にはこの生き方しかなかった。これしか選択肢がなかったんです」
わがままも言わずにまわりとちゃんと同調することができて、人前でもっと愛想よくできる女に生まれていれば、もうちょっと楽に人生を送ることができたのに。
いまだにどこかでそう思っていると、ヒコロヒーさんは言う。

「向田さんみたいに自分で選択して、覚悟を持ってやっていくのと、私みたいに流されるままフニャフニャしながらやっていくのとでは、全然違うと思ったんです」

それでもヒコロヒーさんはエッセイのなかで、こう書いている。
「私の価値観を蝕まないでいただきたい。良かれと思って口出しされることで感覚がブレ、
行き道を失うことなどまっぴらごめんである」
たとえ「それしかやり方がわからなかった」のだとしても、他人の価値観に振り回されることなく、自分のこだわりを貫き通したことで、ヒコロヒーさんの前には新しい景色が広がっていった。
それは働く女性の先駆けとして、自ら道を切り拓いていった向田邦子という女性の生き方と重なって見えた。

自分を律する凛とした生き方。それでいて、つい笑ってしまうユーモアのセンス。
それが向田ワールドの魅力だとヒコロヒーさんは言う。
そして没後45年を経た今でも、その作品は多くの読者を魅了し続けている。

「初めて読んだ向田邦子さんの作品は『父の詫び状』でした」

とヒコロヒーさん。高校時代だったという。

「エッセイだから手に取りやすかったのかな。何度も読み返しました」。

1978年に出版された『父の詫び状』は、向田さんの随筆家としてのデビュー作だ。

また、『男どき、女どき』というエッセイの中で出てくる『独りを慎しむ』という言葉も印象に残っていると言う。

「誰かがいるからきちんとするのではなく、一人でいるときこそ品よくありなさい、慎しんでいなさいと」


33歳で実家を離れ独り暮らしを始めた向田さん。
行儀には人一倍うるさい父親の目がなくなったことで、いっぺんにタガが緩んでしまった。
自由と自堕落は紙一重。
エッセイでは、その当時を振り返りながら自分への戒めとして、この「独りを慎しむ」という言葉を紹介している。


「初めて読んだ10代の頃から、なんか素敵な言葉やなと、ふとしたときに思い出すんです。 ただ、思い出すだけで、いまだに慎めてませんけど(笑)」

最後に、彼女の作品の一節で締めくくろうと思う。

「たとえ それを誰かにいいと言われても、
良くないと言われたとしても、
私が好きなのだから、と、
自信を持ってつり続けられるものを、
ひとつ。
そして、それをきちんと身に纏い続けられる私の人生を、
ひとつ、手に入れたいと、
店員が困ったように控えめに渡してきた
ティッシュを受け取れぬまま、
棚のライトに照らされた色とりどりに輝く
美しい香水たちを祈るように見つめていた」

ヒコロヒー著『黙って喋って』

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Model : Hiccorohee

Photo : Ichisei Hiramatsu(Bungeishunju)

Hair&make-up : Hayato Takeda(PUENTE Inc.)

Styling : Risa Kamimoto

Interview&text : Yasushi Akitsuki (Bungeishunju)

Design : Emi Ureshino

Planning : Bungeishunju Ltd.