一日中、デザインのことを考えているという彼の軸にある“6つ の愛”とは?

――デザイナーという仕事についたキッカケを教えてください。
洋服関係に進みたいとは思ってなくて空間デザインなどインテリアの方に進みたいと思っていたんです。でも高校生の時にミラノコレクションをテレビで見た時に、デザイナーさんがすごく格好よくてすっかり憧れてしまって。それをキッカケにファッションの方へ進もうと決意しました。――オンワード樫山に入社してからずっとデザイナー職ですか?
今24年目になるのですが、入社した時からずっとデザインをしています。――どんな時にやりがいを感じますか?
好きなことができて、形あるものを生み出すことができ、それがかつ仕事となっているということにシンプルにやりがいを感じています。23区というブランドは30年以上続いているんです。展示会や受注会で実際に23区を愛してくださっているお客様にお会いすることができてお話しさせていただくのですが、本当に長く愛してくださっているんです。そういう方々と実際にお会いしてお話をさせていただくと、今自分が任せてもらっている23区というブランドにすごく責任を改めて感じますし、変わらず愛されるブランドでいただくために頑張ろうと思います。
――デザインとディレクション、その違いを教えてください。
ディレクションは、シーズンごとの世界観、ムード作りの舵をとるという感じです。質感、温度感などを1つにまとめ、そこにキーとなるカラーやスタイル画、イメージ写真を用意してムードボードを作っています。――毎シーズン、テーマを考えるのは大変そうですが、どこから生まれることが多いですか?
シーズンテーマは秋冬1つ、春夏1つ。そこから細かく2ヶ月ごとのテーマも作っています。なので、テーマを四六時中考えています。もうネタ切れという時は本当に全然出てこなかったりするのですが…。世の中の流れとテーマが結びつくことをとても大事にしています。テーマは、内部の人間が共通イメージとして持つもので、お客様には言葉として直接伝わらないものではありますが、とても重要な存在。当たり前ですが、僕の思いつきの言葉などではなく、その時の時代感や温度感、気温など含めて「このテーマなんとなく分かる」みたいに内部もお客様も感じとってもらえるようなテーマを考えたいと思っていて、それはすごく難しくもあり、やりがいを感じています。[ MOVIE 01 ]インタビューの様子はこちら

――ブランドのディレクションにあたり、インプットの時間とは?
時間があればなるべく展示などに足を運ぶようにしています。僕は美術館が多く、展示情報をまめにチェックして、気になる展示は休日にまわります。――その中でも印象的な展示や作品はありますか?
写真家のソール・ライターがすごく好きです。そこには特別な思いがあり、ブランド30周年に、カラーテーマを考えていた時のことです。僕は23区にとって赤色はすごく大事なブランドカラーだと思っているのですが、赤にも色々あるので、どういう赤がいいかなぁと考えていた時に、たまたまこの写真集の中で女性が着ている赤いウールコートがパッと目に入ってきて。その赤を軸に、30周年のテーマカラーを決めていきました。そして、2023年秋冬がブランドの30周年だったのですが、そのタイミングに日本でソール・ライター生誕100年記念の展示があったんです。そういうことにもすごく縁を感じて、写真展に足を運び、その時に購入したのがこの写真集。今でもソール・ライターの写真から色の刺激を受けることがすごく多いです。――徳増さんにとって、色が特に印象的なんですね。
そうですね。それに、この写真集はニューヨークの冬だから雨や雪の日の写真が多いのですが、雨の写真を見るとこちら側もなんとなく憂鬱な気持ちになってくるし、雪の写真を見ると凍えそうな寒さを感じます。そういう風に、写真から直感的にすごくストレートに感じられることも好きな理由の1つです。――アウトプットのペースが多いと、インプットが追いつかなくはならないですか?
ひたすら考えるしかないんです。時間が許す限り色々見に行って、あとはひたすら考える。それに、こういう仕事をしていると、何かと何かを結びつけて考えることが得意になってくるのかもしれないです。何気ない記憶が何かと急に繋がったり。それを少しずつ言葉にしていくとだんだん形ができていく、みたいなこともあるかもしれないです。――些細なことも拾ったり、思い出したり、繋げたり、そういう癖がついているということですね。
そうですね。そうするともう全部仕事みたいな感じですよね。このソール・ライターの写真集も、もう何度見ているか分からないのですが、受ける印象はあまり変わらないのですが、新しい発見がしょっちゅうあるんです。あんなところにこんな人が写っていたんだ、この人のスカートの色いいな、など見るたびに発見が変わっていく。その時の自分次第で、発見のポイントが変わるんだと思います。[ MOVIE 02 ]インタビューの様子はこちら

――23区の秋冬アイテムの中で、徳増さん個人が特に愛着が強いものを教えてください。
色々あって悩むところですが、やはりマンテコのコートです。マンテコというのは、イタリアの生地メーカーマンテコ社のことで、この生地を使ったコートは今年で2年目になります。――このコートのポイントは生地ですか?
この生地を初めて触った瞬間から、すごくいい素材だなと思いました。すごく軽いのですが、しっとりとしていて柔らかい。いい生地だと感じた後に、これがリサイクルウール100%だと知って、さらに驚きました。去年に初めてこの生地を使わせていただき、コートを作ったのですが、そのコートの生産過程に工場で出た裁断辺を集めて、マンテコ社に生地として蘇らせてもらっていたんです。裁断片というのは様々なパーツの裁断後に出る切り屑のことなのですが、それを1年間保管してマンテコ社に戻すことで生地としてまた蘇り、そしてそのリサイクルウールで今年またマンテココートを作っているので、1つの素材を同じブランドが循環させているということになります。――リサイクルウールであり着心地もいいマンテココートは4型4色ですか?
そうです。ミドル丈チェスター型、ショート丈ステンカラー型、ロング丈スタンドカラー型、ロング丈フード型の4型です。カラーバリエーションの4色。トップグレー、オートミールのような薄いベージュ、ブラウン、グレーがかった薄いトーンのブラウンです。カラーにもこだわり、ベタっと染まっているのではなくメランジのように表情がある色味に。コーディネートした時にもコートが自然と馴染み、優しい雰囲気が出るのではないかと思います。僕の個人的なイチオシはグレーで、グレーニットとグレーのウールワイドパンツを合わせて、グレーのグラデーションを楽しむスタイリングを楽しんでもらえたら嬉しいです。
――“柔らかくて軽い”という特徴が、今の気温感や気分にとてもマッチします。やはり気候変化はデザインにも影響を?
もちろんそうです。気候が年々変化しているので、いかに心地よく過ごしていただけるかに重点を置いて考えています。素材自体が軽くて柔らかいので、気候に左右されづらい1着に。防寒性に関しては、首元のチンストラップをしめることで立ち襟となり、袖口のボタンの位置をずらすと袖口が締まることで、風を防ぎます。また、全体的に絶妙にゆとりのあるデザインに仕立てることで分厚いニットやインナーダウンなどを中に着ても着心地が悪くなりません。ゆとりあるデザインでも、横から見た時に前後のレングスの差が少しあり深めのスリットが入っていることや、ドルマンスリーブ、丈バランス、など細部にこだわり抜き、360度どこから見ても素敵であって欲しいという思いを込めたすっきりとしたデザインとなっています。
――今の気候変動だけでなく、全国にたくさんお店があるからこそ、どの地域のお客様も心地よく過ごしてもらえるように考えてらっしゃるのでしょうか?
もちろんです。例えば、今年フードのデザインを1型入れたのは、北の方に住んでいる方々からのリクエストを反映しました。雪が降る日はフードをかぶって外に出ることが多いとのお話をショップから受けて、このリバーの軽さならフードも重たくならないと思いデザインしました。今回の秋冬テーマが“アンパルフェ”で、不完全という意味なのですが、今は9月まで真夏のような日が続き、11月から急にとても寒くなり、今までのペースでお洋服を作っていてもズレが生じてくると思うんです。お客様がその時に求めるものとのズレはなるべく起きないようにしていきたいので、例えば、秋物として秋を感じる素材感を使っているけれどデザインは夏物である、というようなちょっとちぐはぐした矛盾を感じるものも作っていきたいと思い、このテーマにしたんです。――たしかに、今はこういうものが欲しいというアイテムが年々時期がずれてきていると感じます。このコートはインナーを着る時にもたついたり着心地悪くなったりしないということはとても嬉しいです。インナーで気候に合わせて調整したいので。
そうですね。そういった部分にはディテールで対応しています。例えば、裏地をつけているのですが、裏地も必要最低限だけ。中に何かを着るときにもたつかないように作用してくれる部分にだけ裏地をつけています。必要な部分に必要な量だけ、そうして削ぎ落としていったミニマルなデザインもこのマンテココートのポイントだと思います。[ MOVIE 03 ]インタビューの様子はこちら

――ランニングの時間はどんな時間ですか?
10年前に走り始めたキッカケはダイエットだったんですけど、途中からルーティンになってます。音楽を集中してきくタイミングは作れなかったので、音楽を聴く時間にしていたんですけど、最近は音楽無しでも走っています。色々仕事のことを考える時間ですね。
――走る距離や時間は決めていますか?
いつも近くの公園を走るんですけど、1周1,1kmなんです。そこを必ず6周走るので、毎週6,6km走っています。時間で言うと、4,50分。最初は何も考えられない状態でしたが、だんだん慣れてくると自分の呼吸法も見つけられるようになってきて、色々な考え事もできるようになってきて、景色を見る余裕も出てきました。――ランニングの時間は徳増さんにとってどんな存在でしょう?
無になるという感覚がすごく近いんですけど、何にも考えないで走っていても、結局気づけば仕事のことを考えています。ただ、走りながらデザインのことは考えられないので、デザイナーチームのメンバーのことを考えたり、デザインよりもむしろそういう仕事の業務的なことを考えたりすることの方が多いですね。デザインのことまで考えられるようになったら、結構もう達人の領域だと思うんですけど(笑) それに、仕事をずっとやっていく上での基礎体力づくりとして走る時間はとても大切。“健全なる精神は健全なる身体に宿る”という言葉通り、仕事する上で精神と身体を整えておくことは大事なことなのかなと思うんです。
体力がすごくついて、風邪を引きやすい体だったのですが、風邪引かなくなりました。朝の目覚めや寝つきも良くなり、走った後の疲労感で自分のその時の体調がわかります。頭の中も整理されますし、いいことだらけかもしれません。走っていると言うとマラソン大会に出場するのかと聞かれたりするのですが、全く出たいとは思っていなくて。距離を増やす気もなく、ただひたすら6,6km走るだけ。それがちょうどいいんです。
[ MOVIE 04 ]インタビューの様子はこちら

――いつ頃から絵を描くことが好きなんですか?
絵を描くのは小学生の頃からずっと好きです。絵と言っても、僕は基本的に紙とペンやマジックを使って描くイラストですね。あまり道具のこだわりはなく、眼鏡ケースのサイズ感がちょうど良いのでペンケースとして利用しています。下書き用のシャープペンシルと、実際に線を引くペン、塗り潰すためのマッキーなどが入っています。ペンなどのメーカーもどこのものでもいいんです、描きたいときにさっと描きたいのでその場にあるもので。
――意外です。道具にこだわりがあるかと思いました。
ランニングはスニーカーがあれば、絵は紙とペンがあれば、思い立ったときにすぐに行動できます。そういった気軽に始められることが好きなのかもしれないです。
――どんな時に絵を描きますか? それは日常的に?
大人になってもよく絵を描くようになったキッカケは、仕事で海外に行った時。僕は海外では時差ボケなどで眠れなくなることが多くて…。夜に眠れない時、暇つぶしに描き始めたんです。ホテルにあった紙を拝借して、そこに持っていたペンで描きました。そうしたら楽しくなって、日常的に描くようになりました。ごくたまに会社からノベルティ用のトートバッグの絵やお店のタペストリーに飾る絵などを頼まれて描くこともあります。これがそのノベルティ。23区というロゴになっていて、この女性が着ている服も23区のアイテムです。――好きな画家、イラストレーターさんはいらっしゃいますか?
ノリタケさんです。線の強弱がほとんどなくシンプルなのですが、親しみやすさや優しさがあって、とても惹かれます。広告などでもたくさんお仕事されていて、それを拝見すると、絵とその広告で言いたい言葉がすごくはまっているんですよね。絵は自分にとって趣味ですが、でもすごく参考にさせていただいています。――気に入っている絵はありますか?
これがブランド30周年の時に描いたイラストです。その時のテーマが"Things in the suitcase" だったんです。エッセンシャルアイテムをテーマにする時に、30年間が詰め込まれたスーツケースというキーワードを連想して描きました。――スケッチブックに直接描くのではなく、描いた絵を貼り付けているんですね
描きたくなった時に描くので、コピー用紙などその場にあった紙に描くことがほとんど。その中で気に入ったものは切り取り、スケッチブックに貼り付けています。アイディアなどをメモする仕事用ノートにもたくさん絵が描きこんであります。ペンと紙さえあればいつでもどこでも没頭できるのがまた嬉しい。イラストを描いているときは本当に何も考えず、仕事でもなく、自分だけの時間です。[ MOVIE 05 ]インタビューの様子はこちら

――大事に着続けている3着のヴィンテージアイテムについて教えてください。
これは今日寒かったので羽織ってきたのですが、アニエスのヴィンテージブルゾン。オーバーサイズのシルエットなど90年代のトレンドによるデザインが好きです。サイジング的にも今っぽいので、今の洋服と合わせても違和感なく馴染みます。バーバリーのヴィンテージトレンチコートも、裏地にチェックが使われているので、ロゴの字体など、おそらく90年代かなと思います。少し汚れはありますが、本当に素材がよくハリ感がきちんと残っていて、丁寧に作られたものだと着ていて実感します。Schottのレザージャケットは、レザーならではの経年変化が魅力です。レザーだとちょっとへたったり剥げたりしている部分があっても味に感じるんです。どれも上質で丁寧だからこそ、変わらず魅力を保てているんだと感じます。――ヴィンテージを愛する理由はなんでしょう?
すごく古いものなのに今でも着られるということは、やっぱり質がいいんですよね。確実に。そして普遍的でありながら、どの時代でも飽きのこないデザインの凄さ。着るたびに身が引き締まります。そして、受け継いでいきながら長く大切に着続けるということを着るたびに実感しています。――長く大切に着続けるということは、デザインする側である徳増さんは受け止め方がまた違う気がします。
自分が作る洋服も30年後、こんな風に大切に着てもらえてるかなと考えると、真摯に仕事しようと改めて思いますよね。世の中には大量生産の量産物が多くて、それを否定するわけではなく、今ではもう実現することができない技術などがたくさんあるんです。そういう部分がヴィンテージアイテムの様々なディティールに残っていたりもして、今でもこの部分なら活かせるところがあるんじゃないかなと考え直したり勉強になります。洋服を誰かに大事に着てもらいたいと思ったら、自分も大事に着ますしね。そういう意味でも、エコやリサイクルなどに対する意識はどんどん強くなってきていますね、やっぱり。自分が生きているあと数10年はそこまで大きく変わらないかもしれないけれど、もっと100年単位で見た時には、もっともっと地球は変わってるんだろうなって思うんです。そうすると、ものを作る仕事をしているので、原材料や、作った後の処分などが気になります。だから今シーズンのマンテココートは、自分たちの裁断辺がまた蘇ってコートが作れたもので、こういう循環はとても嬉しい。自分のヴィンテージ好きは、そういうところも含めて、このよくできた服を捨てるのがもったいないなっていうシンプルな思いでもあります。[ MOVIE 06 ]インタビューの様子はこちら
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